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カール・リヒターの日本での「マタイ受難曲」の不思議。 [クラシック百銘盤]

自分は正直「マタイ受難曲」があまり好きではない。

もう四十年以上前に、
若き日のヘルムート・リリングが、
シュトゥットガルト・バッハ・コレギウムとともに来日、
NHKホールでやった演奏をTVをみてから、
もういくつもの演奏を聴いてきたが、
どうしても好きになれない。

「ヨハネ受難曲」は最初聴いた時からすぐに愛聴するようになったが、
「マタイ」だけはどうにもとにかくダメなのだ。

メンデルスゾーン版や、
フルトヴェングラーのように大幅にカットされたものを除くと、
十年ほど前に今は亡き林達次氏がウィーンで2001年の9月に演奏した、
自主制作盤が唯一最後まで通して聴ける盤だった。

ところが最近遅まきながら入手したカール・リヒターの日本での演奏、
これがようやく二つ目の同曲愛聴盤となった。

リヒターはすでに二種類の同曲の公式セッション録音を残しているが、
正直どちらもすでに聴いてはいるものの全然記憶に残っていない。

このためこの盤も購入するのにひじょうに躊躇ったが、
中古ということで定価の二割以下の価格ということもあり、
購入しそして聴いてみた。


かつてこの演奏は1994年のクライバーとウィーンによる「ばらの騎士」と並ぶ、
日本クラシック来日公演史上最高の演奏と言われていたことがあったが、
その理由がこのとき分かった。


とにかく驚くほどそのドラマに惹きこまれた。

それはまるでオペラとも劇的交響曲ともいえるほどに、
強烈なインパクトを自分に与えてきた。

それはかつて聴いたリヒターのそれよりも、
ライブということなのか、
じつに興の乗った自然な流れと、
一気に音楽を聴かそうという一晩のコンサートの、
そういう環境下での演奏だったためなのかもしれないが、
聴きだしたら途中で中断することができなくなるくらいに、
強烈な音楽を展開していった。


だがかつての1958年のそれよりはこの演奏、
むしろ尖がった雰囲気は後退し、
穏やかで自然な感じになったといっていいような音楽で、
むしろ激しさや厳しさは1958年の方があったように感じられる。

だけどこちらのそれの方が自分には遥かに劇的要素を含んだものに聴かれた。

というよりかつてのそれが、
まるで漢文をそのまま楷書で書いているような感じなのに対し、
こちらはそれを行書にして、
しかも読み下しをつけているような感じといっていいのかもしれない。

これには本当に目から鱗というかんじだった。

おそらくこれからはより「マタイ」をじっくりと聴くことができるだろうし、
好きな曲といえる日ももうそれほど遠くない日にくるだろう。

だけどこれだけの盤が何で廃盤なのだろう。不思議だ。



ところ不思議ついでにでこの盤の録音日をみていて思ったことに、
収録日のことがある。

4月26日:日生劇場
バッハ/ロ短調ミサ

4月27日:日生劇場
[チェンバロ・リサイタル]
バッハ/ゴルドベルク変奏曲

4月27日:日生劇場
[カンタータとマニフィカトの夕べ]
バッハ/カンタータ50番「今こそ救いと力」BWV50
バッハ/カンタータ12番「涙し、嘆き、憂い、畏れ」BWV12
バッハ/カンタータ30番「喜べ、救われた群へ」BWV30
バッハ/マニフィカト ニ長調 BWV243

4月28日:東京文化会館(5月9日昼公演に順延)
バッハ/管弦楽組曲第三番
バッハ/チェンバロ組曲第1番
バッハ/ブランデンブルク協奏曲第4番
バッハ/ブランデンブルク協奏曲第2番

4月29日:東京文化会館
バッハ/マタイ受難曲

5月1日:フェスティバルホール
バッハ/ロ短調ミサ

5月2日:フェスティバルホール
バッハ/マタイ受難曲

5月4日:東京文化会館
バッハ/ヨハネ受難曲

5月5日:東京文化会館
バッハ/マタイ受難曲

5月6日:東京文化会館
[カンタータの夕べ]
バッハ/カンタータ50番「今こそ救いと力」BWV50
バッハ/カンタータ103番「おまえたちは泣き叫ぶだろう」BWV103
バッハ/カンタータ147番「心と口と行いと命」BWV147
バッハ/カンタータ31番「天は笑い、地は喜ぶ」BWV31

5月7日:神奈川県立音楽堂
バッハ/管弦楽組曲第三番
バッハ/チェンバロ組曲第1番
バッハ/ブランデンブルク協奏曲第4番
バッハ/ブランデンブルク協奏曲第2番

5月8日:東京文化会館
[カンタータの夕べ]
バッハ/カンタータ50番「今こそ救いと力」BWV50
バッハ/カンタータ103番「おまえたちは泣き叫ぶだろう」BWV103
バッハ/カンタータ147番「心と口と行いと命」BWV147
バッハ/カンタータ31番「天は笑い、地は喜ぶ」BWV31

5月9日:東京文化会館
(昼公演)※4月28日に中止になった公演の順延分。
バッハ/管弦楽組曲第三番
バッハ/チェンバロ組曲第1番
バッハ/ブランデンブルク協奏曲第4番
バッハ/ブランデンブルク協奏曲第2番

(夜公演)
バッハ/ロ短調ミサ

5月11日:武蔵野音楽大学ベートーヴェンホール
[オルガン・リサイタル]
バッハ/トッカータとフーガ ニ短調 BWV565
バッハ/トリオ・ソナタ 6番 ト長調 BWV530
バッハ/幻想曲とフーガ ト短調 BWV542
バッハ/トッカータとフーガ ヘ長調 BWV540
バッハ/パッサカリアとフーガ ハ短調 BWV582


というのがこの年の来日公演の日程だが、
この「マタイ」の録音はなんと29日と5日の二日分を編集したものとなっていた。

つまり東京での二公演の両方を収録したということだ。

だがこれそのものは決して他に例が無いということではない。
問題はその二公演をひとつに編集したということだ。

この原因はよくわからないが、
マタイ東京初日の前日28日が、
あの沖縄デーにおける都内での学生と警官隊の全面衝突で、
ほとんど内戦常態にこの日の午後から夜はなってしまった。

ミュヘンバッハの一行はこの日が早々と危ないということで公演が中止、
一行は突然の休日を鎌倉見物で堪能したというのだが、
その翌日、やはりいろいろとあったのかもしれない。

特に収録関係でこの影響のトラブルが出た可能性がある。
そしてこのため急きょ5日も収録することになったということ。

ただ演奏者の一部からこれは放送しないでほしいという、
そういう希望というか強い要請が出てしまい、
そこの部分の修正込みで5日も収録をすることになったことも考えられる。

じっさい当時のNHKの放送がどういう流し方をしたかは分からないが、
このCDが1985年のバッハ生誕三百年を記念して発売されており、
その年にはすでにリヒターがこの世にいなかったことを思うと、
この編集はやはり収録後の早い段階で行われたと考えるべきだろう。

このあたりどなたかご存じの方はいないだろうか。

愛聴しているだけになんとも気になってしかたがない。

困ったものです。



因みに4月28日の中止となった公演がなぜ平日昼の5月9日昼になったかというと、
他のミュンヘンバッハの上野での公演日である4日の日曜や5日の祝日に、
それをもってこれなかったかというと、
その日の昼から午後は大ホールがすでに別件で埋まっていたためのようです。

また6日と8日は主催が都民劇場で、
この公演の主催である日生劇場とは違う事などから、
最終的にこの日の昼になったようです。

しかし平日の昼にどれだけの人が行けたのでしょうか。

当時の行かれた方の証言等が聞きたいところです。
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宮田俊一

現在古いFM放送からの録音テープをある事情で視聴しております。本日手にしたテープの背表紙にリヒター/ミュンヘンバッハ管/マタイ受難との記載がありましたが、このところ聴いているテープがレコードのFM放送を録音したものが多かったのでこれもそうかな、と言う疑いを持ちながら流し始めました。でもどうもそうでもないかな、と思いウェブサイトで検索。1969年に唯一一回の来日とありましたし、ケースの隅に1969/6/8の記載があり、もしやしてとさらに調査。東京文化会館で4/29と5/5の演奏記録が出てきました。これが6/8のFM放送でONAIRされたものを録音したテープと推測しています。そして本ブログの中で言われている両日の演奏を再編成してとの事で、中々興味深い裏話を知りました。ご質問へは回答できませんが、更に言えば7号テープ(19㎝/秒のスピードで90分録音)を更にテープ追加して、録音時はテープスピード9.5㎝/秒に遅くして、片面1時間55分くらい録音しています。当時録音された方の思い入れを感じます。 録音も比較的よく録れていると思います。
by 宮田俊一 (2017-05-12 11:09) 

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